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 さきさ れね

Author: さきさ れね
[2010/12/26]から ブログを開始
[2010/12/29](冬コミ)から
個人サークル「ロケット★えんぴつ」
での活動開始。性別は♂ 埼玉在住。

Twitter @Sakisarene

Copyright(C)2005- Sakisa All Rights
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お題30【02/30】
 リンク「お題30とは?」 2010/12/28記事


 お題02「カレー屋を舞台にしたラブコメ」
「学生家庭教師とうらわちゃん」

 こちらは「2009/09/08」に掲載されていたものです。
 ご覧になりたい方は 下の 続きを読む をクリックして下さい。





 俺の名前は、東(あずま)
 自己紹介をさせて貰えるなら、「大学にて教職課程を取りながら、
教師を志す男子学生」とだけ言っておこう。

 うちの大学は教職課程に力を入れていた。
 教職を目指している人なら、1度くらい、うちの大学の名前を耳にしたことが
あるかもしれない。その方面の大学としては、それなりに知名度もあり
伝統もある方だと思う。

 ――とはいえ、別に自分の大学の自慢話がしたいわけではない。

 そんな大学の傾向もあって、うちの大学には特殊なシステムがあった。
 システムとかいうとすごそうだけど、別に大したもんじゃない。

 教職課程に入った学生が学生課で得意科目や時間帯などを登録すると、
家庭教師のバイトを斡旋して貰えるというものだ。

 もちろんそこには『将来教師を志す者として、人に教えること、
人と接することに慣れておかねばならない』などという、大義名分が
あるんだろうけど、大学の方が講義や試験に配慮してくれたり、
融通を利かせてくれるので助かっていた。


 * * *


「なんで本格的なカレー屋って、カタコト日本語が多いんでしょう?」
 机に向かったままぼそりと切り出してきたのは、俺の教え子だった。

 そのセーラー服の背中をぼんやり監視しながら、俺は「本格的なカレー屋」に
ついて考え、ゆっくりと答えた。

「それはまぁ、向こうの人がやってるからじゃないか?」
 本格的なカレー屋と言われて思い浮かべるのは、やはり肌の黒い人が
経営しているお店だろう。

「そうじゃなくて、発音の熟練度というか……」

「その発言はちょっと差別っぽいから、あまり関心できないな」
 呟いてからはっとして、俺は口に手を当てていた。

 声色が無表情だったから、攻撃的に聞こえてしまったかもしれない。
 さっさと忘れて貰う為にも、即座に彼女の質問に答えてやらねば。

 そう考えていると、1つ閃いた。

「カレーと言えばインドだろうけど、そっちの国の言葉――いわゆる
 母国語が、日本語と相性が悪いのかもしれない」

「日本語との相性 ……ですか?」

「国によって、使う言葉とか発音も様々だろ?
 日本語の発音に不向きな言葉があっても不思議じゃない」

 俺は「あくまで、たとえばの話だけど」と付け加えて、この話題を切り上げた。

「なるほど。確かにそれはありえますね」

 まんざらでもない表情で答えたのは、高校2年生のうらわちゃん。
 俺は家庭教師として、うらわちゃんの前にも3人ほど高校生を
教えてきたけど、彼女はすこぶる頭がいい。

 うらわちゃんに俺が教えるのは週3のペース。
 今日で2ヶ月目に突入した。家庭教師として付き添いながら、
うらわちゃんの大学受験(対策)の勉強を見て欲しいとのご依頼で、
自然とこちらにも気合いが入る。

 だが、熱く燃える俺とは裏腹に、うらわちゃんはのほほんとしていた。


 うらわちゃんが、ぴたりとシャープペンを机に置いた。
 次の瞬間には、答案用紙を誇らしげに掲げて見せてくる。

 ……いや、分かってたんだけどね。
 見るまでもないのがやけに悔しい。

 うわー。俺が丹精込めて6時間かけて作ったテスト問題が、
20分もかからず全問正解されちゃったよ。

 教えてる方としては楽だけど、ちょっと切なくもなる。
 昨日の俺の時間を返して欲しいなぁ。
 ――なんて、皮肉交じりにネチネチ褒めてあげたいけど、相手は高校生だし
我慢我慢。

 腕を組みながら、椅子の背もたれに寄りかかりながら、
ちょっと仰け反っているうらわちゃん。

 表情は得意げ誇らしげで、いかにも「えっへん」といったかんじだ。


「でもまぁ、雑談しながらじゃないと実力が発揮できないってのは、
 受験までになんとかしないとマズイと思うよ?」
 それが、うらわちゃんの最大の弱点だった。

 頭がよすぎるせいか、集中すると、考えすぎちゃって裏目に出る。
 雑談じゃなくても、他に意識が向いていれば大丈夫みたいだけど、
試験で音楽かけたり、独り言呟いたりってのは無理だしなぁ。

「うー」

 自覚はあるらしいが、直す気がどこまであるのか。
 そんなうらわちゃんだった。

「フフフ、実はこんなこともあろうかと、
 もう1つ、テストを作ってきたんだ。こっちはさっきより難しいよ。
 じゃあ、こっちは雑談なしで解いてみようか」

 うらわちゃんが分かりやすく嫌な顔をした。
 まぁ、テスト2連続なんて普通に嫌だろうけど。

「BGMとかもなしですか?」

「試験会場にウォークマンとか持ち込めると思う?」

「無理でしょうねぇ」
 うらわちゃんがぽんと手を叩いた。

 いい事を閃いたらしい。

「どこからどう見ても腕時計だけど、実は骨伝導式のMP3プレイヤー
 とかどうですかね?」

「何? その身体に悪そうなの。と言うか、もしそんなのがあったら、
 フツーの人はカンニングとかに使うよね?」

「そうか…… そうか、学校側はそういう情報には敏感だろうし、
 警戒されて、どっち道持ち込めなくなってしまうのか」

「下手したら、受験資格剥奪されるかもね。
 結局は実力で受かるしかないのよ。
 分かったらさっさと始める。制限時間は40分 スタート」

 腕時計の時刻を確認して、俺は問答無用に宣言した。
 うらわちゃんの部屋の時計は信用ならない。
 以前に1回、騙されたことがあるのだ。


「鬼! 悪魔! 草食男子っ!」
 うらわちゃんが罵詈雑言で俺をなじるが、俺は全てが彼女の為になると
信じている。

「最後のって最近のハヤり言葉だけど、そう見える?」

 女性に免疫がある方ではない。
 交際経験が人より多いわけでもない。
 そういう自覚はあるけど、そもそも草食男子ってのがよく分からない。
 今度、「草食男子の定義」を調べてみようかな。


「だって、こんなにかわゆいセーラー服の女子高生が目の前にいるのに、
 東(あづま)クン、何もしてこないしー」

 こちらを「クン」づけで呼ぶのはうらわちゃんのクセだった。
 単にうらわちゃんのDNAが、俺を「先生」と呼びたくないらしい。

「いや、教え子に手出しちゃマズイでしょ」
 内心では少し動揺していたが、俺は平然を装って答えることが
できた(と、思う)。

「えー? でも東クンの前に、同じ大学の人に家庭教師として勉強見て
 貰ったことあるけど、その人はずっと、私のこといやらしい目で
 見てましたよ?」

「マジ? その人どうなったの?」

 うらわちゃんは確かにかわいいと思う。
 父親には会ったことないけど、母親は美人だからなぁ。
 個人的には羨ましい限りだ。

 こんなお母さんなら、俺も授業参観とか楽しかったろうな――なんて、
初対面のときに思った気がする。
 どうでもいいけど、授業参観って懐かしい響きだなぁ。

「お母さんには内緒にしといてくださいね? 心配かけたくないんです。
 その人は、うん、潰しちゃった」

「潰しちゃった!?」

 こちらに向けてウィンクするうらわちゃんだけど、
表情と正反対の過激発言は、あからさまにミスマッチで
違和感にあふれていると思う。

「自分の無能さを理解して頂いて、ご丁寧に退場して頂きました」
 言葉は丁寧だしにこやかに微笑んではいるけど、それがまた怖かった。

「……そのうち、俺も?」
 自分が無能だという自覚はある。
 そんな俺の心の声が、うらわちゃんに届いてしまったらしい。

「東クンは大丈夫ですよー。私これでも結構気に入ってますし。
 外国のとある有名大学の専門用語が入りまくった英論文を見せて、
 あれこれ質問したりしませんよ」

「そんなことしたのか!」

「えぇ、たまたま和訳つきの論文が学校の図書館にあったので、
 原版と一緒に借りてきて、色々と意地悪してみました」
 うらわちゃんが通っているのは進学校だ。
 とはいえ、進学校にはそんな本があるのか。ちょっと想像できない。

「専門用語はタチが悪いよなぁ。ほとんどが辞書にものってないし」

「私はずっといやらしい視線で見られてたんですよ?
 背後からの視線って怖いし気持ち悪いし。プライベートのこととか
 アレコレ聞かれるし。それに比べたら、私がしたことなんて
 かわゆいもんです!」

 男性が思っているより、女性の痴漢経験率などは多いらしい。
 そんな話をどこかで聞いたことがある。

 つまり、それだけ最低な男も多いということで、正直俺は、
そういうヤツは人に迷惑をかけない形なら、即座に死んでくれていいと思う。

 俺が男である以上、たまにこう言う話に出会うこともあるが、
そのとき何が辛いって、俺もそいつと同じ男って事だ。

 性別の上では同じ。もしかしたら同じように思われてるんじゃないかって
考えるだけで、いたたまれなくなってしまう。

「最後の方、涙目になってたからちょっとやり過ぎたかなぁって
 思いましたけど」

「女性は色々あって大変だねぇ。これからも気をつけてね?」
 誠意を込めて言えたと思う。

「これから何か変なことするつもりですか? 冗談はさておき、
 はぃ、おしまい」

 俺は気づいた。
 もしかしてこれは、うらわちゃんに謀られたのだろうか。

「話題が話題なだけに食いついてしまったけど、  
 まんまとうらわちゃんにノセられてしまったかも!」

「ここだけちょっと自信ないけど、多分、あとは大丈夫ですよー」  

 答案用紙に目を通すが、危なげないところが1つもない。
 文句をつけられるのは1箇所だけだった。
「テストとしては満点だけど――0点だね。はぃ、残念でしたぁ」

「意地悪!」
 むすっとむくれるうらわちゃん。

「一応、分かってくれてるとは思うけど、これはうらわちゃんのことを
 思ってすることだからね? 次からは、こういうことはしないように
 お願いしますね」

「ちょっとくらい」
 うらわちゃんが俯いた。

「ん?」  次のうらわちゃんの台詞に、俺はしばし呆然とした。

「ちょっとくらい、褒めてくれたっていいじゃないですか!」
 なんだこの展開。
 そっぽ向く前のうらわちゃんの目が潤んでたのは気のせいか?
 いや、現実だ。気のせいではないだろう。
 この部屋には俺とうらわちゃんしかいないわけで、いや、別に 2人きりを
アピールしたいわけではなくて。

 やっぱりも何も、俺のせいだよなぁ。
 俺が泣かせたんだよなぁ。

 頭がいい子が相手になるとできて当たり前。
 そういう態度になりがちだけど、勉強ができるからって、その全てが自信に
繋がってるわけではないだろうし。

 うらわちゃんはまだ2年生だけど、俺の方が焦りすぎていたかもしれない。
 初めての受験生担当だったし、第1志望の大学に入れるようにって、
気合いを入れすぎていたのかもしれない。

 さて、どうやって謝ったもんか。

「俺が悪かったよ。うらわちゃんはできる子だから、ついね」
 椅子ごと、くるりとそっぽ向いてるうらわちゃん。

 俺はできるだけ誠意が伝わるように言葉を選んで謝まった。

 けど、うらわちゃんからの返事はない。
 聞いてはいるんだろうけど、その上での無反応だった。

「リラックスすれば解ける実力はあるんだから、すぐになんとかなるって。
 一緒に頑張ろう?」
 うらわちゃんの頭上にぽんと手を置いた俺。
 瞬間、ものすごく照れくさい気分になったけど、そのまま右手で
うらわちゃんの髪をくしゃくしゃと撫でた。

 うらわちゃんの髪型はマッシュルームカットというらしい。まんまだけど、
髪型がキノコに見えるのが由来らしい。

「前髪はちょっとナチュラルなかんじにすいてあるけど、これもマッシュ
 ルームカットでいいと思います」と、以前、うらわちゃん本人が教えてくれた。

 クセのない髪が、さらさらと指の中で流れる。
 クセっ毛の俺としてはこの感触は新鮮であり、なんかこう楽しく なってきた。

 わしゃわしゃ。くしゃくしゃ。

「セクハラですよ?」
 不機嫌なうらわちゃんの声に、俺は手を止める。

「じゃあ今日帰ったら、専門用語の英単語の勉強しないとな。
 俺、英語担当じゃないし苦手だから、どうか辞書の持ち込みを許して欲しい」
 俺は手をどけながら、真顔でそう言った。
 しばらくして、うらわちゃんがくすっと笑った。
 どうやら、機嫌を直してくれたらしい。

「そう言えば、今日お母さんは?」
 時はすでに午後の6時過ぎ。

 うらわちゃんの父親はいつも帰りが遅いので、 よく夕飯をご馳走になっていた。
 俺は大学に通う為にアパートで1人暮らしをしていたが、いかんせん
料理はできない。そんな俺としてはとても嬉しい申し出なので、ついつい
お言葉に甘えてしまっていた。

「明日までいませんよ。旅行に行ってます」
 そう言うことは、俺に伝えといて欲しいな。

「そうなんだ。うらわちゃん、ご飯は?」

「余り物でなんとかする予定ですけど?」
 それを聞いてふと閃いた。

「さっきちょっと話に出たけど、本格カレー屋に行ってみない?
 この近くに知ってるお店があるんだけど」

「え? それってデートですか?」
 からかうように聞いてくるうらわちゃん。

「違う違う。ま、強いて言うならさっきのお詫びってことで」

「お詫びのデートってことですか?」

「と、とにかく! おごるからお詫びだし受け取って欲しいなぁ」
 俺の声は裏返り、そんな俺を見たうらわちゃんは笑っていた。

 女子高生の悪戯に見事に引っかかり動揺してしまう大学生。
 こんなんじゃ、立派な教師にはなれないと思いつつ、既にもう
とりあえずお詫びはしないと気が済まなくなっていた。

 さすがに泣かせたのはマズイよなぁ。
 受験って精神面でも色々あるから、その辺も配慮しないとな。
 気をつけよう。

「東クンって、うち以外でバイトしてませんよね?
 そのお金って、うちから出たお金じゃ?」

 確かに、そう言うことになるかな。
 お母さんから頂いたお金を娘に消費するって、 なんか新手な詐欺みたい
だけど、まぁいいか。

「ま、お母さんには内緒ってことで、どう?」

 さり気なく、財布の中身を確認する俺。
 これなら、うらわちゃんがよっぽどのフードファイターでなければ、
足りるだろう。

「行きます! さぁ、行きましょう! 今すぐに!」
 1転して、テンション急上昇のうらわちゃん。
 椅子から立ち上がったかと思うと、俺の腕にしがみついてくる。

(いやっ、そういうのはちょっと!)
 明らかに動揺しながら、俺はうらわちゃんを振り解く。
 それ以前に、もう1つ言っておかなければならないことが!

「うらわちゃんちょっとちょっと! セーラー服で行くつもり?」
 それは色々と誤解を招きそうだから遠慮したい。

 俺が家庭教師として勉強を教えにこの家に来るときは、
うらわちゃんは学校帰りのことが多く、セーラー服のままでいることが多かった。

「東クン」

「うん?」
 うらわちゃんの、びしっとドアに突きつけられた指を見ても、 俺には
なんのこっちゃ分からない。

「覗きたいんですか? 着替えたいんですけど」
 ほんのり頬を赤くしたうらわちゃんが、俯いたまま口を開く。

「あ、はぃ! ただいまっ!」
 俺は部屋の外まで駆け出すと、ドアを閉めた。

 うらわちゃんが鍵をかける音を聞いて、俺は胸を撫で下ろした。

 そりゃ、そうだよな。
 自分で着替えろと言っておいて、そのまま部屋にいるなんて
俺はどんだけ変態なんだ。高校生の生着替え万歳男なのか? 俺は。

「うん?」
 部屋の外にいるはずの俺が、ノックされた。
 相手はもちろんうらわちゃんだ。

「ちょっと、仕度に30分くらいかかっちゃうと思うので、
 下の居間でテレビでも見ながら待っててくれますか? すみません」

「あぁ、うん――気にしないで」
 女の子って準備に時間かかるって聞いたけど、本当なんだなぁ。

 俺がうらわちゃんの状況だったら、5分もかからずに仕度できそうだけど、
それって俺がおかしいんだろうか。

 ま、お言葉に甘えてテレビでも見ていよう。
 うらわちゃんの家のソファは居心地がいい。
 触り心地も沈み具合も秀逸だ。

 ソファの真ん中に陣取ると、そこはテレビを見る為の特等席になっていた。

 テレビは地デジ対応の薄型ハイビジョン。
 電源を入れただけで、ちょっと感動してしまった。
 パラパラとチャンネルを変えてみるが、特に見たい番組はやっていなかった。

 ふと思ったのは、こういうときに自分の趣味に走っていると、
「何、見てんの?」なんて展開になったときに、対応に困る気がする。

 だから俺は、当たり障りのないクイズ番組を見ていた。
 見ていたとは言っても、テレビの画面を含めた風景をぼんやり眺めて
いたようなものだった。


 * *


「東クン、東クン?」
 どれくらいの時間が経ったのか。どうやら俺は眠っていたらしい。

 うらわちゃんに頬をぐりぐりやられて、ようやく目を覚ましたらしい。
 自分の状況を確認すると、俺はソファからずり落ちていた。
 人の家でなんともだらしない姿だと思った。

「眠いですか?」
 無理はしない方がいいですよ――そんな雰囲気を醸し出しているうらわ
ちゃん。

 思ったよりうらわちゃんと至近距離で、俺は動揺しまくっていた。

「えっと、今、なん時?」

「7時過ぎですよ? ほら、あそこに時計が」

 うらわちゃんが指差す方を見ると、壁に丸時計が見えた。
 3分だか4分だか、そんなところか。

「あぁ、そだ。着替えは終わったの?」

「ええ、いいものも撮れましたし、それでは向かいますか」

「え? いいもの?」

「東クン、携帯で撮っても起きないから――ほら、これです」
 そこには、なんともマヌケな俺がいた。

「お嬢様、その画像は削除して頂いてもよろしいでしょうか?
 それは、この世にあってはならないものです。むしろ世界を破滅に導くような
 悪しき物です。少なくとも、私にとっては」

「そうなの? まぁ、いつかあなたを脅すためにとっておくわ」
 お嬢様口調で応じるうらわちゃん。
 なんでノリノリなんだ? うらわちゃん。

「じゃ、行こうか」

「東クン?」
 先に立ち上がった俺に、うらわちゃんが声をかけてきた。

 振り向いてうらわちゃんを見るが、何かを言いたそうな顔をするだけで、
何も言ってはこない。

「何か言いたいことがあるなら、言った方がいいよ」

「東クンは、なんで待っていたんでしたっけ?」
 どうやらそれはヒントらしい。

「うらわちゃんが着替えるって言うから――あ、そうか」
 そう言うことか。
 俺は座っていたうらわちゃんに手を差し出しながら、
「よく似合っているよ」 と、うらわちゃんの私服姿を褒めてみた。

「全然見てないくせに」
 わざとらしく頬を膨らませてうらわちゃんが言葉を返した。

 「見ていないくせに」と、うらわちゃんが言うが、それは真実で
ありながらも理由としては真逆だった。

 緑のキャミソール。
 赤がメインで茶色やら白やら黒だかで色んな太さで線の入った
チェック柄のプリーツスカート。
 羽織ったピンクのカーディガン。
 黒のハイソックス。

 正直、見ていられなかったのだ。
 最近の高校生は、俺が思ってるより大人だった。
 そんなこんなで、カレー屋に向けて歩き始めた2人。
 もう少しでお店に着くという頃になって、うらわちゃんが突然 聞いてきた。

「さっき、お詫びって言ってましたよね?」

「うん。口止め料と言い換えてもいいけど、まぁ、猛省はしているので
 許して頂けると」

「それは、さらに言い換えると接待ですよね?」

「……接待、ですか?」
 なんかこう、嫌な予感が。

「今から私の家に送り届けるまでの間、東クンは私を接待し、
 私が喜ぶことだけをして、私をもてなさねばなりません」

「え、マジ?」
 うらわちゃんの顔を見ながら聞き返すが、うらわちゃんは微笑みながらも
目が据わっていた。

「東クンは腕を組むのと手を繋ぐのだと、どっちがドキドキしますか?」
 たぶん前者だろうけど、今そう答えると「されそう」だから、
後者で 答えた方がいいのか? いや、うらわちゃんの場合、後者で答えたら
「じゃ、ドキドキしないんですよね?」とか言われて、どっち道
前者になりそうな気がする。

 これは分かってて、からかわれているんじゃないんだろうか。
 さっきからずっとだけど、高校生にからかわれるなんて、なんて 情けない。

「ほら、もう着くよ」
 俺はうらわちゃんの思い通りにさせてなるものかと、ちょっと強引に
うらわちゃんの手首をつかんで手を引いた。

(どうだ! これなら草食男子じゃないだろう?)
 なんて思いながら、一瞬だけうらわちゃんを見やるが、
うらわちゃんの表情から、取り立てて変化も動揺もかんじられない。
 今時の高校生は、俺が思ってるより大人だってことを
再認識しただけに 終わった。

「はい、到着」
 小さな店舗は外から見ると、喫茶店のような外装だった。

 レタリングや色合いで若干読み辛い看板には、「フェアリー・オブ・カリー」と
書かれていた。

「先に入りますね」
 そう言ったのはうらわちゃんだ。
 ドアの小窓から、店の内装がうかがえた。

 手織り機で織られたような赤い絨毯と、金の象の像がちらりと 目に入った。
 うらわちゃんがドアを押すと、からんからんと鈴が鳴る。

「イラッシャイマセー ナンメイサマ デスカ?」
 黒人1人が、白い出で立ちで出迎えてくれた。

 コックを連想させる白い帽子、服、エプロン。

「2人です」
 先に入ったうらわちゃんがそう答える。
 そう答えながらこちらを見て、苦笑していた。

 表情から察するに「やっぱりカタコトでしたね」と、 言いたかったんだと思う。

 結局俺は、カレー3種類とチキンティッカとナンとサラダと
ラッシがついたBセット。

 うらわちゃんは、カレー2種類と以下同文のAセットを注文した。

「別に、お金のことは気にしないでよかったんだよ?」
 Aセットの方が若干安い。気を遣われた気がしたからそう言うと、

「食べたいカレーがかぶってたので色んな種類を試した方がいいかと
 思いまして。色々と交換しましょうね」

「あぁ、うん――それは構わないけど」
 うらわちゃんがそう言ってるのだからそれでいいのだろう。

 そう言えば、ナンはかなり久しぶりな気がする。
 ナンてナイスなんだナン。俺は君の存在に感謝する!
 今だけかもしれないけど!

「どうします? 見ておきますか?」
 ガラスから、ナンを焼いてるところが見れるらしい。

「ヨカッタラ、ミテクダサイー」

 そんな微笑みで、先ほどの店員が手招きしている。

「うん、せっかくだから見ておこうか」

 どうせ生地をパンパンやって、生地を伸ばして釜に貼り付けるだけ だろう
――とか、ちょっと思っちゃうけど、それを口にしたら気分は台無しだ。
 うらわちゃんの為にも口を閉じていた俺だった。

「職人芸なのかもしれないですけど、やったことがないから
 どんだけ難しいのかわからないし、パンパン生地を伸ばして釜の内側に
 貼り付けてるようにしか見えないんですけどね」

 ――言われちゃったよ!

 俺にそんなことを言っておきながらも、傍目から見ているとうらわちゃんは
楽しげで、若干店の人に気を遣っているのか「おー」とか「わー」とか、
感嘆の声をあげていた。

 うらわちゃんは俺が思ってるより、気遣いできる大人だった。

「このほうれん草のチキンカレー ユニークな味がしますよ」
 カレーの入った銀色の金属器をうらわちゃんが差し出してきた。

 ほうれん草の色なのか、容器の中は緑色だった。

「じゃあ俺は、王道かもしれないけどマトンカレーを差し出そう」

「全部頂きます!」

「トレード率が違う!?」

 俺はカレーを楽しむと言うよりは、どぎまぎしながら、うらわちゃんを
見ていたように思う。さり気なく観察していたように思う。

 ナンをちぎるうらわちゃんの手つき。
 ラッシ(ヨーグルト飲料)に口をつけるうらわちゃんの唇。
 うらわちゃんの家で夕飯をごちそうになっているときとは、ちょっと違う
気がした。そんな彼女が目の前にいた。

 それは、母親が目の前にいるかいないかだけが理由ではないだろう。
 そんな気がして、いつもと違う理由を探してみたけど、結局俺には
さっぱり 分からなかった。


「東クンってやっぱり、草食男子っぽかったですね」
 食事はすでに終わっていた。
 料金はすでに払い終え、うらわちゃんを家に送るべく、
俺達は夜道を 歩き出していた。

 そのネタをまだ引っぱるとは思わなかった。

「なぜに俺は草食男子っ?」

「チキンティッカを食べてるところ、スプーンでほぐして食べてるところが、
 草食っぽくてかわゆかったです」

「いやぁ、まぁ、接待だったからね。がぶりついていいもんか悩んだんだけど、
 お行儀よくしてみた」

 口から出た出任せだった。

「あら、気を遣われてしまったみたいですね」

「まぁ、満足して頂けたら幸いですよー」

 すぐ後ろにいたはずのうらわちゃんが、追いついてこない。
 俺が後ろを振り向くと、うらわちゃんは立ち止まっていた。

「私まだ、東クンに志望校言ってなかったですよね?」

「ああ――うん、聞いてないね」
 だけどうらわちゃんなら、色んな選択肢ができると思うよ――と、
言おうと思ったとき、その言葉はうらわちゃんに遮られた。

「私、東クンと同じ大学行きたいです」

「それはえっと……」

 うちの大学の特色は教職課程であり、むしろそれ以外に特徴が見当たらない
ような学校だった。

「私が入学しても、ちょっとしか一緒にいられませんが――それでも」

 あぁ、やっぱりそう言う意味なのか――と、俺は思った。

「うちの大学は教師とかになりたくないんだったら、こない方がいいよ。
 興味があるなら別だけど」

 それはきっと、うらわちゃんの可能性を潰すことになる。
 それだけは、人としても家庭教師としてもしたくなかった。
 また泣かせてしまうかも――とは思ったが、俺はきちんと言葉にして、
うらわちゃんに伝えた。

「私の気持ちは――迷惑ですか?」

「それは、考えたことがなかった。うらわちゃんのことは嫌いじゃない
 けど、いい子だと思うけど、そういう風に意識したことはなかった。
 正直、うらわちゃんが俺のどこを好きなのかが想像できない。
 俺がうらわちゃんと歩いていて、釣り合っているとは思えない。
 もちろん、俺が下って意味だけどね。だから――」

 俺の言葉はまた、うらわちゃんに遮られた。
 もし遮られなかったら、俺はなんて言うつもりだったのだろうか。

「1つだけ、約束して貰ってもいいですか?」

「えっと、何を?」

「仮に――私達の関係がどうなっても、気まずくなったり東クンが
 私のこと嫌いになったとしても、家庭教師は続けてくれますか?」

「それは別に構わないよ。うらわちゃんや親御さんにクビにされたり、
 こっちに特別な事情ができない限り、家庭教師は続けるって約束
 すればいいのかな?うらわちゃんから距離取ったり逃げるために、
 家庭教師をやめたりしない。誓うよ」

 うらわちゃんの表情は複雑だった。
 俺の知らない色んな気持ちが、その身体には込められていたんだろう。

 俺がそんな誓いを立てると、うらわちゃんはすっとそれらから解放されたように
「よかった」と、たったそれだけの言葉を紡いだ。

 俺は多分そのうらわちゃんの表情を、一生忘れることはないだろう。

「私が大学生になったら、もう1度、告白しますね。
 それまでに考えてみてください」

 そう言ったうらわちゃんは、もう笑っていた。


 翌日、俺はまた昨日のカレー屋「フェアリー・オブ・カリー」を訪れた。

 今日はうらわちゃんに勉強を教える日ではないが、急にうらわちゃんに
呼び出されたのだ。

「今日は自分の分は払いますから」と、メールには 書かれていた。

「すみません。お待たせしました!」

 いつものうらわちゃんが、入ってきた。

 昨日のことを気にしてるかと思っていたけど、そんなことはなさそうだった。

 正直に白状すると、今日の俺は昨日のことが常に頭をよぎって、
講義に身が入らなかった。

 初めて告白されたのが年下の高校生。どうしたもんだか迷うが、
相談できる相手もいない。

「そう言えば、用件を話してなかったですよね? 心配させちゃいましたか?」

「ああ――うん、思ったより元気そうで安心した」

「東クン、明後日(あさって)誕生日ですよね?」

「え……?」
 俺は今日の日付は――えっと? 26日だよな。
 だとすると明後日は28日だな。俺の誕生日は――6月28日だったな。

 情けないことに、今日の日付と自分の誕生日を重ね合わせるだけで、
数秒を要してしまった。

 そしてやっと、うらわちゃんが言うことが真実だと理解した。

「すっかり忘れてた。もしかして今日の呼び出しは、それ関連?」

 なんかこう、もっとややこしいことかと思った。
 告白した返事を今すぐ欲しいとか、私を異性として見れないなら
話がある――とか。

「家庭教師では、明々後日(しあさって)まで会えないので、
 このお店でできることを考えてみたんですが」

 どうやらうらわちゃんは、このお店が気に入ってくれたらしい。

 誕生日のお祝いは当日、もしくは日付より前であれば許すが、
遅れた場合は誕生日のお祝いとは認めない。

 そんな独自の価値観がうらわちゃんの中にはあるらしい。

「予定が合わなくて遅れるならまぁ仕方ないですけど、お誕生日のおめでとう
 メールとかで数日遅れるって、絶対忘れてましたよね!」

 そんなこと話を以前された気がする。

「今日は、俺が接待されるわけか」

 告白されて、返事もまだきちんとしていない。
 と言うか、想像できないからって先延ばしにしているような男なのだ俺は。
 相手が言うことを、都合のいいところだけ扱っている。

 自分の最低さ加減に嫌気がさしてくる。
 今日、大学の講義中に悩んだ末に俺が出した結論は――とりあえず、
うらわちゃんの受験に響くかもしれないから、返事は早めにしよう。

 さっさとどちらかに、気持ちを固めようと言うものだった。

「今日は接待しちゃいますよー。えっと、私からのお祝いとして、
 ビール1本奢っちゃいます! 昨日来て気づいたんですけど、
 エベレストビールとか色々向こうのビールがあるんですよね
 このお店。ほら、選んでください」

 お酒は強い方じゃなかった。
 だけど、俺はメニューを受け取った。

 俺が誕生日の話をうらわちゃんにしたのは、たぶん初めて会った ときの
1回だけだ。

 それをうらわちゃんは覚えておいてくれて、 こんなサプライズを用意して
くれたのだ。

 昨日の別れ際、いつもの2人を演じてた気がするけどやっぱり
気まずさを感じた。

 そんな中で、翌日呼び出したり行動を起こすことが、
どれだけ大変かは分かっているつもりだ。

 俺だったら多分、行動に起こせないで終わる。

(こりゃ、うらわちゃんの誕生日は何かしないとな)

 そう思いながら俺は、今日を楽しむことにした。

「カールスバーグにしようかな」
 俺はビールを選んだ。

「ピッチャーですか?」
「違えよっ! どんだけ飲ませる気だよ!」

 その後のことは、うらわちゃんには申し訳ないことに、ほとんど 覚えていない。
 とても楽しかったということと、俺が酔っ払って変なテンションに なったから、
うらわちゃんも上手い具合いに昨日のことを思い出さずに、
楽しめたんじゃないだろうか。

 *

 久々にアルコールを摂取した俺は、小瓶1つで、送っているんだか
送られているんだか分からない状況になっていた。

「うらわちゃん、俺は酔ってなんていないからね」

「分かってますから、気をつけて帰ってくださいね」

「あ、うらわちゃん、髪の毛にゴミが」

 うらわちゃんの前髪に糸くずがついていた。
 気づいていないようなので取ってあげた。

「あ、どうも」  うらわちゃんがお礼を言う。

 いつもと変わらぬ笑顔で俺を見つめていた。

 俺は気がつくとうらわちゃんの前髪をかきあげ、うらわちゃんの額に
自分の唇を当てていた。

「大学に入るまでは、これで許してくれないかな? 言っとくけど……」

「酔ってないんですよね?」

「ああ、酔ってはいない。今日はありがとう。
 また明々後日(しあさって)に」

 俺は逃げ出すように立ち去った。

 俺は今日、法を1つ犯した。
 俺が20歳を迎えるのは、明後日の誕生日だったのだ。

 前祝いといううらわちゃんの気持ちが、俺にちょっとした罪を犯させた。

 俺の夢は、教師である。

 教師とは子供達の見本でなければならない。
 だから俺は、特に青少年育成法とかを破ったりはしないだろう。
 しばらくは健全な付き合いを続けたいと思う。

 未だに恥ずかしく、「ちゃん」づけで名前を呼ぶ日々が続いている。
 そんな俺を人は、草食男子と言ったりするのだろうか?

 おしまい

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【創作】≪お題30≫ | 21:04:45 | トラックバック(0) | コメント(0)
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